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疾患の説明:食道癌

食道癌とは

食道にできる癌で、多くは食道粘膜から発生する扁平上皮癌です。特殊な食道癌としては、バレット腺癌、腺扁平上皮癌、類基底細胞癌、内分泌細胞癌、未分化癌、悪性黒色腫などがあります。早期で発見できれば内視鏡的手術で完治することが可能ですが、胃癌や大腸癌と比較して早い段階からリンパ節転移を来すという特徴があり、これらの癌と比較すると、悪性度の高い癌といえます。また、リンパ節転移を起こしうる領域が頸部・胸部・腹部と広範囲であることも、悪性度が高い原因となっています。食道癌診療には医師だけでなく、看護師・検査技師・リハビリテーションなど他のコメディカルスタッフも含めた総合力が不可欠です。

どのような人に多いのか

食道癌は50歳以上の中高年に多く、9:1の割合で男性に多い病気です。さらに、喫煙歴と飲酒歴は食道癌の発症と密接な関係があるといわれており、特に喫煙歴と飲酒歴の両方の習慣を持つ人はリスクが高いといわれております。また、お酒を飲んだ後すぐに赤くなるような体質の方もリスクが高いとされています。

症状

多くの癌は初期には無症状であることがほとんどで、食道癌も同じです。次第に大きくなってくるにつれて、食べ物を飲み込んだときにチクチクした痛みや違和感、つかえ感が出てくる確率が高くなってきます。しかし、かなり大きくなっても症状を自覚しない場合もあることから、内視鏡検査は重要です。

検査

食道癌の治療法は、画像診断を含めた精度の高い進行度診断に基づいて選択されます。以下に、食道癌の精密検査について説明します。

(1)食道X線造影検査
図1
図1:進行食道癌の食道造影検査(食道の一部が狭くなり、癌の存在が疑われます)

X線造影検査では粘膜癌(早期癌)を発見することはなかなか困難ですが、粘膜下層癌以上に浸潤した食道癌の描出は比較的容易であり、食道癌の存在が診断できます。X線造影から得られる情報は多く、おおよその進行度の診断だけでなく、腫瘍の深達度や占居部位、周在性、大きさ(長径)、狭窄の程度などが判定できます(図1)

(2)食道内視鏡検査

最近では解像度の高い電子内視鏡の開発によって早期、表在癌の発見例が急増しています。さらに、ヨード染色を用いた色素内視鏡の普及により通常内視鏡観察ではほとんどわからない病変でも不染域として同定できることから早期癌の診断と発見が容易になっています(図2図3図4)。

図2
図2:食道表在癌の内視鏡検査(食道の一部がわずかにただれています)
図3
図3:食道表在癌の内視鏡検査(ヨード染色で黄色い部分は癌があります)
図4
図4:進行食道癌の内視鏡検査(内側に盛り上がった部分(↑)と、赤い部分が癌です(点上向き↑))

また、最近では狭帯域フィルター内視鏡(Narow band imaging: : NBI)などの強調画像や拡大視といった精密検査の開発が加わり、これらを併用することでさらに詳細な観察が可能になりました。内視鏡検査から得られる情報は、食道癌の部位、病型、大きさ、広がり、深達度、多発病巣の有無などですが、組織を採取する生検によって病理診断を得ることができます。内視鏡的切除術の適応病変である粘膜癌の発見には欠くことのできない重要な検査といえます。また、胃や十二指腸だけでなく咽頭や喉頭の観察も詳細に行い、重複癌の発見にも努めています。当科では、苦痛なく楽に内視鏡検査を受けて頂くために、鎮静剤の併用を行っています。

(3)食道超音波内視鏡検査

超音波内視鏡検査Endoscopic ultrasonography (EUS)は食道癌の深達度診断と縦隔および腹部リンパ節転移診断に欠くことのできない検査で、通常の内視鏡検査に続いて行われます。超音波内視鏡検査には内視鏡に超音波プローブが組み込まれた一体型と、内視鏡の生検鉗子孔を通して使用する細径超音波プローブの2通りの検査法があります。周波数5MHzから20MHzを用いて観察しています。現状では最も詳細な情報が得られる手段と考えられています。

(4)CT検査、MRI検査

Computed tomography (CT)は食道癌の局所進展すなわち隣接した他臓器への外膜浸潤とリンパ節転移診断、および肺や肝臓などの遠隔臓器転移診断に有効です。CT検査施行時には高濃度造影剤を静脈注射することで血管内腔や腫瘍が造影されより詳細な情報が得られます。また、64列MDCT の開発によって、より精密な診断が短時間で行うことができるようになりました。進行食道癌の大動脈浸潤や気管気管支浸潤の有無やリンパ節転移程度が手術適応を含めた治療方針の決定に重要な情報になります。

Magnetic resonance imaging (MRI)は生体から出される共鳴電磁波の分布をコンピューター計算によりデジタル断層画像として構成する画像検査です。横断面ならず冠状断や矢状断の像も得られる点で優れています。MRI画像は腫瘍の外膜浸潤や隣接臓器浸潤、リンパ節転移診断に有効な検査です。

その他、対外式超音波検査も重要な検査として施行しています。

(5)PET-CT検査

最近PET(陽電子放射線断層撮影)という新しい検査法が注目されています。これはがん細胞の代謝が正常細胞より活発であることを高感度で検出できる方法です。いままでリンパ節転移はCT、MRI、超音波などの検査を用いて、大きさや形から推測するしかありませんでしたが、PET検査はCT検査と組み合わせることで、これまで見つかりにくかった小さなリンパ節転移や遠隔転移を発見できるようになりました。

これらの画像検査結果を総合的に判定して、臓器機能や年齢などの全身状態をふまえて適切な治療方針をたてています。なお、これらの検査は、当院初診時に当日食事を摂らずに来院して頂ければ可能な範囲で施行しており、迅速な診断を心掛けています。

治療

食道癌の治療法には、食道癌の状態、全身状態などを勘案し、以下の治療法を行っております。

(1)胸部食道癌手術

食道は頸部食道、胸部食道、腹部食道の3つに分類されます。胸部食道に癌のできることが多いため、一番多く行われている術式です。 適応は壁深達度が粘膜下層より深く浸潤した癌です。食道癌が気管や大血管に浸潤した症例、肺や肝臓等へ転移した症例は適応から外れます。胸部食道癌の手術は癌のある胸部だけの手術ではありません。胸部、腹部、頸部の3領域の手術が行われます。

  1. 胸部操作で癌を含む胸部食道の切除を行います。
  2. 腹部操作では、新しい食事の通り道を胃で作成します(胃管作成)。
  3. 頸部で首まで持ち上げた胃管と頸部食道の吻合を行います。食道癌の手術は癌部の切除だけではありません。リンパ節も一緒に切除(郭清)することが重要です。胸部食道癌では胸部だけでなく、腹部や頸部にもリンパ節転移する可能があります。そのため頸部、胸部、腹部の3領域のリンパ節郭清を行います。

胃管を頸部まで挙上する再建経路は3通りあります。

  1. 胸壁前経路(皮下を通す経路)
  2. 胸骨後経路(胸骨と心臓の間)
  3. 後縦隔経路(もとの食道があった部位)

それぞれに長所、短所があるため症例に応じて選択しています。術直後は集中治療室で管理し、状態が良ければ翌日には病棟に戻ります。早期から歩行訓練をしていただき肺炎の併発を予防します。

食事は術後1週前後から始まります。最初は飲み込みにくく、むせやすいためバナナ、里芋などの柔らかい食事から始まり、退院までには全粥を食べていただきます。退院前には手術で切除した食道癌の病理結果とその後の外来での経過観察について説明します。具体的な内容は顕微鏡検査で癌がどのくらいの深さまで浸潤していたか、リンパ節転移の有無についてです。 近年、食道癌手術の低侵襲化を目的に、胸部や腹部に内視鏡を挿入して行う、胸腔鏡や腹腔鏡を用いた内視鏡下手術が行われています。われわれの施設でも、積極的に食道癌内視鏡下手術を行っています。※

※詳しくは「当院における食道癌内視鏡下手術について」をご参照ください。

(2)食道EMR/ESD

食道癌は早期発見、治療が難しい疾患といわれています。しかし、早期癌のうちに発見されれば、胃癌や大腸癌と同じように患者の負担が小さい内視鏡的切除で根治することができます。内視鏡的切除とは経口的に挿入する内視鏡を用いて食道癌を含む食道粘膜を切除する治療法です。食道壁の厚さは約4mmで内側から粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層で、最も外側が外膜で被われています。

内視鏡的切除の適応は主に壁深達度と周在性で決まります。壁深達度に関しては癌浸潤が粘膜固有層までの粘膜癌です。理由はリンパ節転移の危険性がないからです。周在性に関しては2/3周以下の病巣です。理由は全周近くまで切除すると治癒過程で瘢痕性の狭窄を来して食事が通りにくくなるからです。内視鏡的切除の方法は大きく2つに分類されます。内視鏡的粘膜切除(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。

EMRは専用のチューブや内視鏡先端に装着したキャップ内に病巣を含む食道粘膜を吸引し切除する方法です。当院では、食道癌に対してEMRが行われるようになった初期より、幕内博康教授の開発した専用のチューブを使用して行ってきました。現在までに800例以上の食道癌を治療してきました。安全に施行可能であり、なおかつ良好な成績を示すことができ、優れた治療法と考えています。ESDは専用のナイフを用いて食道癌を含む食道粘膜を一括で切除する方法です。本院では症例に応じて適応を決めて行っています。

食道癌の危険因子として喫煙、飲酒、男性、耳鼻咽喉科領域の癌などが良く知られています。当院ではより多くの症例を粘膜癌のうちに発見し、内視鏡的切除で根治できるように食道癌スクリーニング検査を積極的に行っています。

(3)化学放射線療法

食道切除以外の治療方法には、化学療法(抗癌剤治療)と放射線治療があります。この2つを併用したものを化学放射線療法と呼び、相加相乗効果を期待でき、化学療法や放射線治療単独で行うよりも併用することにより治療効果が高くなります。

食道癌の進行度や既往歴などによる耐術能がないなどの判断から手術ができない場合に、手術と同様に根治を目的として行う治療のひとつです。あるいは手術適応であっても手術を希望されない場合にも選択される治療法です。

しかし侵襲度はかなり高く、副作用に加えて晩期障害なども起こるため、決して苦痛の少ない治療とはいえません。また、転移、再発などに対しても病状によっては化学放射線治療を行うことで、腫瘍の縮小を図り症状を和らげることができることがあります。

(4)食道ステント挿入術

ステント挿入術は血管、気管、胆管、膵管、消化管など、体内の管腔臓器が狭窄したり閉塞した際に内腔の確保を目的に行われています。食道は口から胃までの直線状の管腔臓器のため、消化管のうちステント挿入が最も挿入しやすい臓器です。食道ステントは一本の細い形状記憶合金を編み込んだ構造になっています。挿入時には細く折りたたんだ状態になっているため、狭窄部へ安全に挿入することがでます。形状記憶合金のため、自然に拡張し内腔を確保し食道壁に密着します。

食道ステント治療の適応は以下の症例です。

  1. 切除不能な進行食道癌による癌性狭窄例:食道癌が隣接臓器へ浸潤し、臓器転移を認める進行食道癌で、全身状態も悪く化学療法や化学放射線療法もできない症例。また重篤な合併症により手術の困難な症例です。
  2. 化学療法後の狭窄例:化学療法により主病巣は縮小しても狭窄は増強し、外科切除の適応とならない症例です。
  3. 食道・気道瘻症例:食道癌が増大して気管や気管支また縦隔と瘻孔を形成することがあります。肺炎や縦隔炎を併発すると全身状態も不安定になります。このよう症例では瘻孔閉鎖のため緊急処置としてステント挿入術を行っています。
    食道ステント挿入術は食道癌そのものに対する治療ではありません。癌のために狭くなった食道を拡げて少しでも食事が出来るようにすることが最大の目的です。ステント挿入後も十分に食事が取れない方には、内視鏡的胃瘻造設術を行います。食事と経管栄養の併用で栄養管理を行い在宅療養の指導も行っています。

食道癌の治療方針

当院では上記の治療を組み合わせ、最新の食道癌診療ガイドラインに基づいた高度な診療を行うことができます。さらに、併存疾患や食道癌の状態から治療法の選択が難しい状態でも、我々のこれまでの豊富な経験を基に、総合病院として各科と連携しながら、最善の診療を行っています。食道癌診療には医師だけでなく、看護師・検査技師・リハビリテーションなど他のコメディカルスタッフも含めた総合力が不可欠であり、当院の良好な診療実績を反映させています。

食道癌に関するお問い合わせ事項

食道癌に関わる以下のようなご質問がございましたら、担当医とご相談の上いつでもご連絡ください。

参考文献:「臨床食道学」(小澤壯治・木下芳一編/南江堂)

食道グループの特色

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